§38-1 美の認識における満足感

美を認識すると、満足感が生じる。この満足感の正体は何だろうか。

人は、満足とは、意欲が満たされることだと考えているが、実は違う。
意識が意志に奉仕している限り、一時的に意欲が満たされても、すぐに新しい意欲がその同じ場所に起こる。要は、苦悩や享楽に突き動かされる限り、けっして永続的な幸福には辿り着かない。これは、まるで死海に繋がれたタンタロスのような状態である。

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死海に繋がれたタンタロス

しかし意欲のこのはてしない流れから、偶然や気まぐれにより解放される瞬間がある。この状態が前述の純粋認識の状態であり、意欲と根拠の原理に従う認識方法を廃棄した状態である。この状態に達すれば、求めても求めても逃げられてしまう心の平安が、ひとりでに実現される。

芸術はイデアを伝達すると述べた。オランダの風景画、ロイスダールやフェルメールの風景画に描かれているのは、ありふれた風景である。だからこそ、これらの芸術家の非凡な穏やかな心境を、我々観賞者のうちにももたらしてくれる。

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ロイスダールの絵

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