§2-4 天才の孤高

この世で最も幸福なのは、天才の知的生活である。

人間の能力は自然界の闘争のためにある。しかし、体力・筋力などは、闘争が終わるや否や持て余されるようになる。このため、俗人は刺激感性の享楽、スポーツを始めとし遊歴、跳躍、格闘、舞踊、撃剣、乗馬などにその能力を空費するのである。

天才とは知的・ 精神的能力 原文検索 が有り余っている人のことである。彼は安静と余暇さえ与えられれば、持て余した能力を、作品に注ぎ込むことが出来る。天才は知的生活が自分の至上の目的となるほど没頭し、ライフワークとなる。能力が有り余っていなければ、こうした完全な没頭は不可能である。

このような生活が最も幸福なのは、以下の3点による。

  • 喜び 自分の能力を最大限活用できる。没頭の間じゅう、喜びに満ち溢れている
  • 苦痛と退屈からの解放 外部の刺激に幸福の源泉を求めないので、苦痛が無い。しかも、高度な知性は退屈知らずでもある
  • 進歩向上 能力の発揮が空費されることなく、作品に結実するため、不断に進歩向上する生活となる

これに比べて、俗人の生は無限に満たされることのない肉体的享楽の獲得のため、屈辱的な苦痛に耐え、しかもそうした生活が円環のように死ぬまで続くものである。だから、人間の幸福には人のありかた(1)、とくに精神的享楽の能力の有無が決定的なのである。

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